2020年6月の短歌
流れてく風の色さえ忘れ去りキャッチボールはほど遠くなる
たぶんそうなんじゃないかと思ってた影踏み抜けばおとなブロイラー
薄暗い道をずっと歩くからビタミンAをめっちゃ摂ってる
誰も待っていない駅のひび割れた椅子の落書きの赤あざやか
素因数分解された雷の紫だけでできたワイシャツ
ありえない初夏の中にいる人はかつての幸せを祈っている
いちごつみまとめ第四期
荒地識(Twitter→@arechishiki)さんと短歌でいちごつみをやりました。下の記事が第三期へのリンクになっています。
50首になったので、一区切りをつけていちごつみ第四期としてブログに公開することにしました。ネットプリントとしても登録する予定です。
2019/12/04にはじまって2020/06/01までやってたので、約7か月やっていました。月日が過ぎるのは早いですね。奇数番が荒地識さんで、偶数が私です。
01:願いごとすべてはきみが五階から飛ばした鳩の数だけ叶う
02:願わくば蟻を一度も踏み潰すことなく生を終えていきたい
03:足元の蟻を砂糖で埋めてゆくやさしい地獄ここにあります
04:かみさまは砂糖と塩の割合が完璧すぎるパンを作れる
05:小匙一、塩を加えてつくられた誰もすまない色のない海
06:誰も住まなくなってから長い家そろそろ燃やしてもいいですか?
07:あかあかと落ち葉燃やして銀色が煤けてしまう様を見守る
08:サクサクと落ち葉踏みつけ音鳴らしあなたを刺した日を思い出す
09:床に臥す母がいたのだサクサクとあなたが殺す霜柱には
10:こわれたらもう戻れないものだから二度と踏みつけるな霜柱
11:もう二度と会わないひとの横顔が電車の窓にうつりこむ春
12:もうきっと会えない人の横顔の鼻とくちびるだけ覚えてる
13:くちびるが季節の色に色づいたきみは僕より四季を知るひと
14:万物が終わること知る神様は終焉ばかり考えて泣く
15:万物が描かれている静物画もの悲しげな眼窩がこわい
16:12色パステルセット赤だけが砕けてしまい描けぬ林檎
17:病床で声を殺して泣く僕の代わりに林檎さりさりとなく
18:誰もいないベッドでひっそり泣いていたテディベアの涙をぬぐう
19:不器用に青いリボンを結ばれたテディベアにも孤独はあるか
20:顔を上げこぼれる涙そのままにぼやけてにじむ不器用な青
21:雨粒がこぼれるまでのひとときを洗濯物とともに過ごした
22:雨粒が祈りのように降りそそぎすべてを傘ではじいて歩む
23:傘の外わたしが徐々に濡れていくアンパンマンでなくてよかった
24:あちこちのかけらが徐々につながってないはずの像が見えてしまう
25:ないはずのアリバイ語る探偵と僕によく似た助手の男
26:「待ってくれ戸棚の中にアリバイはついさっきまであったはずだぞ」
27:戸棚からきみの写真が出てきたが代わりに僕のカステラがない
28:雪の日の青い景色の写真たち春になったら溶けてしまった
29:雪の日にふたりで埋めたはなびらが火星で発見されたらしいよ
30:火星にも運河ならあるみたいだしそのままそこに沈んでいよう
31:そのままを維持することは難しく散らかりながら整う暮らし
32:このままを維持することがいいことかわからないまま夜が過ぎてく
33:頭上からザアザア夜が降ってきて足下すべて星空にした
34:ザアザアと雨の音だけ聴こえてるここは暗くて見えない誰も
35:暗くてもお茶をくんでこられるしプリンに名前書かなくなった
36:茶柱が真中に立てば大丈夫ポストに手紙が入ってるよ
37:癖のある文字で書かれた手紙からあなたの声が聞こえるようだ
38:見つめあい分かりあえてる心地でも背後にはあの2文字がある
39:着心地のよいシャツがほしい春の陽気を纏うような
40:そう遠くはないその日を待ちながら春の陽気を深く吸い込む
41:遠くまで行ける切符を手に入れて僕らはきっと離れ離れだ
42:二人でも生きてくことができるから別の路線の切符を買った
43:いつもとは違う路線を選ぶ朝、通勤鞄わざと忘れた
44:ずっと待ちくたびれてるよ通勤に使うため買った黒い鞄
45:雨の中とことこ歩く黒犬のしっぽのゆらめき眺める散歩
46:黒犬に死神さんと声かけて下がる眉尻めっちゃかわいい
47:死神にいつ出会ってもいいようにウォークマンを常備している
49:肋骨が折れて会社へ行けません通勤電車でかける電話
50: 紅の花がはじめて開いてく肋骨欠けた君の舌先
2020年5月の短歌
たいせつなひとから順に消えてゆく遮光板持ち光を覗く
ひそかに差し込み印刷されている自殺の文字に誰も気づかず
にんげんはおしゃべりだから話さないあのね神様祈りを聞いて
生きている人は死ぬのが嫌らしい 薄氷の上でするスケート
友だちを友だちだって言う強さ ずっと揺れてる針の先端
海に行きカニになれたらいいのになテトラポットはたぶんやさしい
白鳥の硝子細工を手に持てば落としてしまい破片が刺さる
おにぎりが百円セールの時期には道に軍手がよく落ちていた
笹の葉を追いかけたくて走り出すせせらぎまみれの石の歩道
エアコミティアで短歌とイラストの組み合わせのペーパーを出しました。無料でDLできるのでもしよかったら手にとってみてください。
4月の短歌とか
いろんな実 種類があって 痛いなあたとえばこれはトゲトゲあるし
わからないものは忘れたことにして蜘蛛の巣がある小路を歩く
コロッケにめんつゆをかけさっぱりとするわけねーよ衣をはがせ
嫌ならば嫌と言ってもいいらしい紅茶に溶ける砂糖の触手
通りにはバケモノがいるオカルトを死にたくなって信じて向かう
学校で変だ変だと言われてたAさんの目をしてる俳優
瞬きの間に吹いたぬるい風いまならきっと仲良くなれる
人権があるのはとてもうれしいな指の隙間の光まぶしく
お互いに惹かれあってたNさんはSさんになり離れていった
さよならの密度だけなら知っていた 濾した牛乳流しに捨てる
さよならの日にあなたの身にぶちまける色のことだけ考えている
甘い言葉を言われただけで砂糖のように溶けてゆく
「助けて」となったら遅いもう遅い
五月雨は散りゆくものを沈めてく
あざやかに縄結ばれて死はそこに
2020年3月の短歌
同じ人ばかりを写す鏡にはどうやら自我が芽生えたらしい
親密な態度になりたい 親密な人に振る舞う態度って何
友達とどんな話をしてるのか知りたくなって聞いてみる夜
ありふれた今日の痛みは水溶性だったらいいな風呂へと向かう
ニラレバのニラとレバーを食べながら柿ピーのこと思い出してる
歩く速度は速すぎるが食べるときの速度は余裕で追いつく
2020年2月の短歌
ああなんだ、生きてたんだと言われたいテラリウムほらすくすく育つ
もう歳をとらない人の誕生日ブルーのラインあざやかに引く
オブラート包んで飲んだ粉薬 ブルーの光 そう、満ちていく
あのドアはトイレみたいな音がして幽霊のせいと思われてる
2020年1月の短歌
たいせつをおたがい壊しあった夜のぬるいライチもあんがいうまい
夏生まれになりたかった通学路 雪だるまみな蹴飛ばし歩く
引き抜いたジェンガを重ねぼくたちは上へと登る 「さようなら」 壊
かみさまとわたしがたどる直線は果ての果てまで平行でした
皮肉には皮肉で返すことにした現金送れみなすべて詐欺
文字列として生きようと思うこと不法投棄が沈む川底
こんなにも波の響きは近いのに見つけられない海岸がある
話したらいい奴じゃんと思ったし分かりあえるはずだったんだ