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ひっそりこそり

10月の短歌

幸せになれないことを刻まれて玉ねぎだけのカレーを作る

 

神様はいないけれど猫はいますエノコログサで和解できます

 

鮮明な恋をしたいと思いつつトロサーモンを一口で食う

 

生きててもしかたないねと独り泣く片割れがいないさくらんぼは

 

えらいって言われるよりも大好きって言われたくなる雨降りの午後

 

向日葵が無事に咲いたと嘘をつき独り如雨露で看病をする

 

マスカットあざやかに口の中ではじける 辿る道はどこだろう

 

絶望はないが諦めはある日々 星が降るのを望んで生きる

 

あたたかなふとんを出られぬ猫と我 そのまま夢はカダスの野へ

 

さよならの意味を知ってるふりをした 冷えた光が今日はまぶしい

 

花束はさよならの色満ちあふれ祝福としてあなたを送る

 

この村の東広場のポストにはやってはならぬまじないがある

 

フルタイムコミュニケーションエブリデイ 魚のニットで耐えてく日々

9月の短歌

9月
憂鬱で布団に沈む真夜中に金魚になってすくわれる夢

 

薄荷飴なめながらゆく道 心臓まで凍らせてくれ薄荷よ

 

思い切りたすけてほしいで殴ったら親友Aさん死んじゃった

 

学校が怪獣たちに壊されて僕らの放課後永遠なれ

 

たすけてほしかったAさんが塗る青空はどこまでも続いていた

 

ほんとうはたすけてほしかったAさんは青空を塗る係だった

 

いなくなってほしくなかった君はさよならでいなくなってしまった

 

ほんとうはたすけてほしい青空は気づいてほしくてたまに曇り

 

ほろほろのクッキーさくりと噛みしめ 心は刺して刺されてゆくのみ

 

8月の短歌

豆電球だって虹になれる光は持っているけど 出られない

 

夕暮れの規制ラインを乗り越えて私だけが溶けてゆく闇夜

 

どうしてもつかめない幸せは紅茶に溶けゆく砂糖菓子の城

 

もういなくなってしまった人の恋 現像をして窓辺に飾る

 

ここでしか呼吸することできません 巣の端っこに置いてください

 

降った雪すべてなくなる夕暮れに オモチといえばすべてオモチだ

 

だんだんと眠りが満ちる夕暮れにあなたの影を探して迷う

 

たくさんの眠気を誘うカロリーが満たされているあなたの心

 

信じることはさらけ出すこと 子クジラのペンダントを胸に下げる

 

コミュニケーションエラー 糸は絡まり一つのセーターにはなれない

 

たくさんのパラレル未来夢想して彼と出会える可能性探す

 

麦茶飲み夏に向かってミネラルと叫んでみても汗は止まらず

 

死んでいる君のお墓に五億円供えて叶ってよ蘇生術

 

ほろほろのクッキーさくりと噛みしめ 心は刺されて刺してゆくのみ

 

終端は見えないけれどそこにある 虹の根っこにたどり着きたい

 

あざやかにガラスを割っていくようなハッピーデイズコミュニケーション

 

踏切の向こう側の異界には踏み入れないで秋になるから

 

プリズムに光を当てて分離したつめたい光が夜を照らす

 

短歌:7月後半のやつ

なにもかも間違いだとしても隣同士の鉢植えでいたかった

 

スニーカー青色の紐きゅっと締め空に向かって覚悟してろよ

 

2年C組恋心の乱 里中君は委員長を仕留め

 

光速が解明される時代でも歩く速さでよりそっていく

 

原子と原子は混ざることがない テトラポッド乗り口笛を吹く

 

空色の水たまりの中パラレルな世界にパラソルを持つ君

 

光速でニュースが巡る回線で 歩く速さでよりそっていく

 

逆さまの狂う時計の世界では恋しい君に嫌いっていう

 

たんぽぽのお酒 昨日の友に向かって今日も生きようと乾杯

 

神様にミュートされても息するし酸素がないと生きてけないよ

 

真夜中にぎゅっとするのが愛ならば私は愛を愛しています

 

選ばれなかったものは選ぶことを知らず 桜桃をひとつぶ食べる

 

たこやきをひっくり返すそのときにそうだ明日も生きてみようか

 

あなたは雲からさす光 灰の夕暮れ 一緒に帰りたかった

 

川の中青を感じて渡ってく 光によって救われたいよ

 

こんなにもきれいなことが仕組まれて ただの歯車と言ってごめん

 

あんなことがあった土砂降りあとの会話 ポツポツと小雨のように

 

いいことなんてぜんぜんないんです 梔子の花を封筒に入れ

 

水色の雨の香りのさびしさにさいはての地に透明な虹

 

ファブリーズでも消えない私の頭のなかのぼんやりとした君

 

 

短歌:6月~7月前半

イプシロンデルタの極限で触れ合う手のひら溶け合ってしまえよ
 
二人きり手つなぎ登る星見の塔 光 洪水ははるか下に
 
よりそいたかったよりそいたかった君を振り払えぬまま夕暮れ
 
なにもかも間違っていた夕暮れに草笛を吹き届けよ彼へ
 
キリマンジャロマシーン遠い未来のあなたへ大好きを伝えよう
 
十月はたそがれの国 車窓から眺めるトリックオアトリート
 
シミュラクラ機械仕掛けのシナプスはヒトもどきのパルスを発する
 
引き金を引く瞬間に夢を見る インスマウスのものどもの顔
 
気にするなだってあの娘は羽がない空へ向かって逃げちゃえばいい
 
胸の中すべてが黒になる前に朝の光の粒子になりたい
 
ピーマンの品種をすぐに言い当てる君の横顔とてもまぶしい
 
目の前の少女の背中に貼り紙で「あなたではありません」とあり
 
なにもかも大丈夫だよ目をつむりまたコーヒーにクリームを足す
 
三日月のクロワッサンを分け合って二人で食べた春の真夜中
 
完璧な機械仕掛けの時計にはかけがえのないネジばかりある
 
人生の服用量を守ること 適度に死んで依存を防げ
 
パステルの基本セットの12色赤色だけがなぜか足りない
 
シュレッダーかけそうになる思い出をやっぱりやめて引き出しに入れ
 
意識は感情の奴隷 薄桃色の折り紙をゆっくりと折る
 
赤色のバツばかりある答案を壁に貼り付け息を吐き出す
 
手元見ずキー押すことを強いられて好きが茎になったりするから
 
「仲良しはサイコーなので皆さんも仲良ししよう!」利用者の声
 
あのときの青い気持ちを採取してことこと煮詰めゼリーで食べる
 
透明で深い氷のやさしさを縋っていたら溶けてしまった
 
山を出て一人暮らしの怪物はライングループハブられている